思えば私がGFX50SⅡを購入した理由、いやフィルムを始めてでも中判というものに求めたものはなんだっただろう。中判フィルムにできてデジタルAPS-Cにできなかったもの。その間にあるものに答えを出してくれるのではないかと思いこの度、富士フイルムのGマウントレンズであるGF80mm f1.7を購入しました
長期間の使用ではないのでファーストインプレッションに近い形にはなりますがこのレンズを使って得られたもの、気になること、どんな写真が撮れるのかなどについて簡単にではありますが書いていこうと思います
外観とスペック
スペックは以下の通り。レンズ構成としては贅沢になっているおかげか重量はそこそこするけどサイズは許容範囲内に収まっている印象。最短撮影距離としてはまぁ普通なので近接での撮影は他のレンズに任せた方がいい。それでも大口径レンズの魅力があるので色々な場面で使ってしまいたくなる
レンズ構成 | 9群12枚(非球面レンズ1枚、スーパーEDレンズ2枚) |
焦点距離 | f=80mm (35mm判換算:63mm相当) |
最短撮影距離 | 70cm – ∞ |
外形寸法 | Ø94.7mm x 99.2mm |
質量 | 795g |
フィルターサイズ | Ø77mm |
写真で見るととても小さなレンズに見えるけど多分実物の方が大きい。大きいとは言うが印象としては変わらないサイズのAPS-Cレンズなどもあると思うので(XF16-55とか)ボディとのバランスが重要になりそう。中判としては間違いなく小さい部類には入るので気後れする必要はないです
このボディバランスが個人的に好き。勿論GFX50SⅡのキットレンズであるGF35-70mmと比較すると大きく重いものに感じられるだろうけどあれはGF35-70mmが小さすぎるというだけなので一旦忘れよう。一日着けていてもあまり疲れなかったので個人的にはGFX50SⅡ+GF80mmの組み合わせが機動力を失わず撮影の苦にならない上限かなと感じた
私が中判に求めたことってなんだろう
このレンズを何故か買う気になったのかといえば中判フィルムで体感した解像感、空気感をこのレンズならデジタルでも叶えられるかもしれないと思ったからでした。Hasselblad 500c/mのような繊細な描写、解放で撮った時に被写体が鮮明に浮き上がってくるかのような中判カメラの空気感を再現したいと思っていたのですがGFXのセンサーサイズは645判にも満たない44×33なので現実的に無理でした
と、思いきやGF80mm f1.8であればバケペン+takumar105mm f2.8の描写に近くすることが可能だとカメラ部TVさんの動画で知ることとなり、私の興味は一気にこのGF80mmf1.7に向けられることとなります
私が憧れてフィルムを始めた、あの中判フィルムの解像感。同じ気持ちをデジタル中判に求めた人にとってはこのGF80mmは無視できない存在であり例に漏れず私もその一人でした。多くのレンズは金銭面的にも機動力的にも保有できないのでこれが最適解なんじゃないかなと思ってます
良いコト、考えるコト
圧倒的ボケ感と空気感
良いコトの一にして全てでもある圧倒的ボケと空気感がこのレンズの強み。ピントは極薄で明るすぎるため晴天の中では使用が難しくチャンスをものにするのは難しいですが噛み合った時の描写は中判デジタルを選んだ理由を知ることになるレンズです。今現在Gマウントレンズで一番明るいレンズでもあるのでそうした光量が必要なシチュエーションが多くあるのであればこれ以外の選択はなさそう
堅牢でボディとマッチしたサイズ感
レンズ本体の質感が非常に気に入っていて金属の塊という感じの堅牢で高級感があるのでお金を出した甲斐があるなと感じるところ。何よりこれがGFXのボディサイズと良い感じにマッチしているので撮影していて違和感もなく疲れも非常に少ない印象です。機動力を失わずに撮影できる上限かなという感じはするので構えた撮影だけではなくストリートなども撮りたい人にはこのレンズをおススメします
迷うAFと大きなモーター音
おそらくGFX50SⅡのAF方式であるコントラストAFのせいか、かなりピントが迷います。あとはピントが合わないことも多かったり距離が近いほどAFが大変な気がします。それ以上に困惑したのがモーターがうるさいこと。撮った写真を確認するたびにモーターが動いてうるさく、また撮影に戻るとモーターがまた動くというとにかく煩わしい。DCモーターで大きなレンズなので仕方ない部分があるとは思いますが慣れるのに時間がかかりそうです
描写の魅力
このレンズの最大の魅力は描写、そして空気感を作り出せること。逆に悪い点といえばAFの遅さと正確性が悪いことなので早い話、GFXシステムにおけるXF56mm APDと表現するのが一番早そうです。中判でf1.7が受ける恩恵は大きく、以下の写真のように解放と少し絞りで映る世界が大きく変わってきます
左:f1.7 / 右:f8
解放のピントは非常に薄いので合致した場所の描写は凄いですが外してしまうと何を撮っているんだかわからなくなってしまうことも確かです
それでもなお合致した時に生じる「そこにあるという存在感」は脳が痺れるものがあります。ああこれが中判なんだ、望んでいたものなんだということを惜しみなく与えてくれるのでお金を払った意味が理解できました。おすすめの距離感としては開放で3-5m距離、これが一番立体感を与えてくれます
その被写体を浮かび上がらせてくれるということでつい人を多く撮ってしまいたくなるレンズでもあるかなと感じました。勿論AF速度も遅くピント精度も悪いので一筋縄ではいきませんが写真という狭い世界の中に物語をもたらしてくれるのは確かです
写真そのものに雰囲気を出してくれるので個人的にはおしゃれなものを撮りたくなってしまいます。室内の一部や椅子、ガラスに反射したものなどが被写体として魅力的かもしれません
何でもないものに意味を与えてくれる、XF56mm APDでも同じことを感じたものですがこのGF80mmにも似たものを感じます。圧倒的描写力を持つレンズというものは往々にしてそういうものなのかもしれません
勿論、自然なのどの遠景でも大活躍。ぼかして立体感を与えるのが個人的に一番魅力的な使い方だとは思いますが隅々までパッキパキなのもまた良いでしょう
作例
レンズシステムの完成。
現代のレンズとしてはかなり癖玉の部類に入ると思います。圧倒的描写力と空気感、でもその代わりにAF速度とピント精度のトレードオフ。こんなに多くのお金を払ったのにそんなチャンスを逃すようなレンズを使っていいものなのかと思うこともあるとは思います
でも私が欲しかったのは数多の写真よりも満足のできる1枚が撮りたかったからこのレンズを選んだのだと思います。軽くて汎用性の高いGF35-70mm、そして特別な写真のためのこのレンズGF80mm
これが私のGFXの答えです。